〈only you can do〉
*****
夕飯の後、銀次はソファでうたた寝をしてしまった。
なんだか急に息が苦しくなって飛び起きようとしたら、重くてカラダが動かない。
それもそのハズ。
蛮が思いっきりのしかかって、Tシャツの上から長い指を這わせていた。
「んんんうっんぅーーー!!」
自分では『なにしてんだよー』と叫んだつもり。
そんな銀次の驚きが声にならないのも当然。しっかりと蛮の唇で塞がれていたのだ。
起きてまず目にしたモノが、幾ら大好きな人のカオとはいえ。
いきなりドアップなんて心臓に悪い・・・などとあたふたしていると
蛮が銀次の視線を捉えてニヤリと笑った。
「よぉ、銀次ィ。・・・目ェ覚めたか?」
やっと口が解放されて銀次は大きく息をついた。
「・・っ・・んぁー、ビックリしたぁ」
「0時過ぎたぜ。コレでやっとオレ様に追いついたな」
「ふぇっ・・?・・あ、そっか。・・オレ・・」
あけて4月19日。銀次の誕生日。
2人がコイビトになってから、初めて迎える銀次の誕生日。
「そっ。おめでたいヤツのおめでたい日」
「う。蛮ちゃんヒドイや」
「・・・まぁまぁ。そう怒んなよ、銀次」
「もう〜、コレって普通怒るでしょ」
自分の上に馬乗りで、こーんなとんでもないコトして。
挙げ句に『おめでたいヤツ』だなんて・・・
「寝込みを襲うなんて反則だよぉ」
銀次はちょっと拗ねながら、軽く蛮を睨み付けた。
「あぁ?なーに言ってんだ。オメーが約束も忘れて眠りこけてんのが悪ィんだろ」
「約束・・・?」
えとー、えとー。・・何だっけ?
寝起きに加えて、蛮のイタズラのせいでまだボーっとしているアタマを一振りした。
「・・・あっ!・・ゴメン蛮ちゃん!」
「・・・はぁー、コレだモンなぁ」
「ほんっと、ゴメン!」
「あー?別にィー」
今度は蛮がワザとらしく拗ねてみせた。
「所詮、オメーにとってオレ様との約束なんてよぉ・・うたた寝以下ってことかよ」
「んぁっ〜〜、違うってば!ねぇ、蛮ちゃ〜ん」
19日になる瞬間は、ベッドの上、ラヴラヴで
一緒に迎えようね・・・そうおねだりしたのは銀次自身だったのに。
「あ〜〜、オレってバカだぁー」
半泣きで、今にもタレそうになっている。
蛮は苦笑して銀次の上から降りると、隣に座り直した。
「んな情けねぇツラすんなって」
「だってぇ。・・・ね、どうしよう?」
「いーってコトよ。なんたって今日の主役はオメーだかんなぁ?」
銀次の背後に腕を回すと、ポンポンと軽く肩口を叩く。
いつになく寛大な上、ちょっと引っかかるその言い方に銀次が気づいた時はもう遅かった。
がっしりと抱きかかえられて、動けない。 蛮のアタマにはアクマのツノ。
「・・・蛮ちゃ〜ん。スッゴク嬉しそうだねぇ・・」
「あ?そりゃぁ大切なヒトの誕生日だモンよ」
そう言って銀次を引き寄せると、蛮は額にキスをした。
「お祝いに、スゲぇモンくれてやっから楽しみにしてな」
「う、うん。・・ありがと」
蛮の笑顔が優しすぎるから、銀次はますます身構えた。
「っつーワケで。銀次君、寝室にご招待!」
「・・・んぁ〜っ。・・やっぱり何か企んでんでしょ〜〜」
「あー?失礼なヤローだなぁ。オレ様の心からの贈りモンだぜ?」
「き、気持ちだけで充分です〜〜」
「いーからいーから。遠慮なく受け取りやがれっての」
抵抗虚しく、銀次は半ば強引に引きずられていった。
*****
「ねぇ蛮ちゃん、何でベッドの上なワケ?」
「そんなん、プレゼント渡すからに決まってっだろ」
「うぅ。やっぱそうなのかぁ。オレ、あんまヘンなコトすんのはヤだなぁ・・」
自分がうたた寝さえしなければ、もっといいムードでココにいられたかも・・なんて
浮かないカオして銀次が考え込んでいると
「オメーなんか勘違いしてんだろ?やーらしいなぁ」
そう言いながらも蛮は銀次を押し倒した。
「んぁっ!・・・だって、蛮ちゃんそんなモノ持ってるじゃん」
蛮は何故か包帯を手にしていた。おまけに、枕元には手鏡と小さなナイフ。
―――銀次が訝しく思うのもムリはない。
「あ?こんなん使ってナニして欲しいのか?」
「違っ・・」
「緊縛っつーのも面白そうだケド・・ソレは後でのお楽しみってな」
「ええっ??」
本気で困惑しているらしい相棒の様子に、蛮はとうとう笑い出した。
「ははっ・・バーカ。マジに取んなよ・・・」
「もう!蛮ちゃんってば、勝手にヒトリで楽しんでるぅ」
「悪ぃワリぃ。コイツぁな、ちっと儀式に使うんだよ」
「儀式?」
「そっ。オメーにオレ様のチカラを分けてやる」
「蛮ちゃんのチカラ?!」
一体、どーゆうコトだろうと首を傾げる銀次を後目に
蛮は包帯をその辺に転がして、代わりにナイフを手にした。
「ちょっと蛮ちゃん!何して・・・!」
「・・・黙ってろ・・」
ためらいなく左手の人差し指に刃を当てると、小さなキズをつけた。
「うぁ・・・血が出てるよぉ・・・」
「銀次、テメーも手出しな」
「ええっ?・・何で?・・・ヤダよ、オレ・・」
「怯えんなって。こんなん痛くねぇし。・・オレを信じて任せろや、な?」
言葉はいつもどおりでも、蛮の声音はどこか真剣だった。
決して軽い気持ちで始めたコトではないと察して、銀次は覚悟を決めた。
「んっ・・・ワカった」
「お、イイ子だ。・・気を楽にして横たわってろ」
そっと手を取られ、一瞬ヒヤっとしたけれど。
「銀次・・・」
「・・・んっ・・・・・」
キスをしながらの施しだったから、怖くはなかった。
―――銀次の指先にも赤い流れが細く伝い、蛮がソレを口に含む。
「・・あっ・・・ぅ」
「じっとしてろって」
「・・・っ・・蛮ちゃん・・」
痛みドコロか、心地よさをカンジて銀次は少し身悶えた。
「な?たいしたこたぁねーだろ?」
そう囁く蛮のアゴを、己の血が伝い・・・銀次はそのイロッポさに心臓が苦しいくらいドキドキした。
「蛮ちゃん・・・オレ・・なんか・・ヘン・・・」
「シンパイすんな。目眩はスグに治まる」
見下ろしてくる蛮の瞳がいつもより甘い。・・・そのクセ妖しさまで
漂っているから・・・銀次は今更ながら見とれてしまった。
「次は、オメーの番」
蛮の指先が銀次のクチビルを割る。
「やっ・・苦っ・・・」
血の味に銀次が思わず眉をひそめると、蛮は互いに赤く染め合った唇を重ねた。
とたんに麻薬のような甘美さ。 銀次はうっとりと目を閉じた。
「んっ・・ぅ」
「・・・コラ、喘ぐな」
「・・・だって・・・っ・・あ・・ぅ」
角度を変えて、何度も唇が降りてくるし。 そっと舌先で口内を探られるし。
―――儀式だなんてコト、忘れてしまいそう。
「・・・っはぁ・・・・・」
「こんなモンかな」
蛮は一度身を起こすと、まだ微かに血がにじむ互いの指先を絡めた。
そっと傷口が触れ合うよう、器用に包帯で巻いて固定した。
銀次はされるがままに、成り行きを見ていたが。
覆い被さるように、傍らへ横たわって来た蛮の体温をカンジたとたん
全身が甘い痺れに包まれて・・・どーしても喘いでしまった。
「・・・あぁっ・・・く・・・・・っ・・ん」
「銀次ィ・・んな熱っぽい声で煽るんじゃねーよ・・」
「・・・あっ・・だって・・気持ちいい・・・」
「〜〜ったく。オレ様がガマンしてやってんのにいい気なモンだな」
キズに負担をかけない程度にキュっと手を握りしめると、銀次のカラダもピクンと反応を返す。
「ねっ・・指先から・・熱が伝わってくる・・」
「なぁ・・・ワカるか?
こーしてオレとオメーの血が少しずつ混ざってんのがよ・・」
「・・・うん・・とても、アツイ・・ね」
緩やかな快感に耐えながら、銀次は空いている方の腕で蛮の背を抱きしめた。
蛮も金糸の髪を梳いてやりながら目を閉じる。
―――そのまま、互いの鼓動が同調する様をしばらく楽しんだ。
「銀次。オレは何があろうと、絶対オメーを守ってやる」
蛮が静かに宣言する。
「・・・蛮ちゃん・・」
「ケドよ、守られる一方なんてヤダっつー気持ちもあんだろ?」
「ん。・・正直ゆうとね」
「んじゃ、コイツはやっぱ切り札になんぜ」
「切り札?」
「そっ」
ゆっくりと銀次の上体を引き起こすと、蛮は包帯を解き始めた。
「痛かったり気持ち悪かったりしてねーか?」
「うん。大丈夫」
「よっしゃ、下準備はオッケーだな。あとは・・と」
「えへっ。ワクワクしてきた。・・次は何するの?」
「はいよ、仕上げ」
鏡を銀次に手渡すと蛮はサングラスをはずし、鏡面上で目を合わせた。
「しっかり見てな」
鏡越しに受け止めた視線が、まるで意識を解体するかのような錯覚を銀次にもたらす。
(コレって・・・邪眼発動してるときの・・蛮ちゃんの瞳だ・・)
「銀次!もうちっと堪えて見てろ」
(オレ・・今・・間接的に・・邪眼受けてるの・・か・・な・・?)
辛くも苦しくもないケド、自我に何かが侵入してくる不快感がちょっとだけ続いた。
経験したコトの無い不思議な『酔い』に、銀次が陥る寸前。
不意に抱き留められている己に気がついた。
「あ・・蛮ちゃん・・」
「お疲れさん。コレで終ぇだ」
「え?・・結局何の儀式だったの?」
「テメー自身の目をよーく見てみろよ」
もう一度鏡を覗き込む。・・と、自分の瞳の中に、蛮と同じイロを帯びた文様が淡く浮かんでいた。
「蛮ちゃん・・コレって、もしかして・・」
「そっ。今ので、オメーは一度だけ邪眼を使えるようになった」
「・・・わぁ〜・・・うわぁ!スゴイや!」
「コレがオレ様からのプレゼントだ。・・どうよ?」
「うん!嬉しい!世界中で蛮ちゃんにしか出来ないプレゼントだもんねっ。ありがとー!」
銀次は勢い良く蛮に飛びついて、ベッドの上に2人して倒れ込んだ。
「わーいわーい!スゴイスゴイー♪」
そのままゴロゴロと転げ回る。
「・・コラッ、ヤメロって!・・大げさなんだよテメーは」
「だってさぁ!コピーだけど、オレが頑張って切り札使わないでいられたら・・・」
「・・・あん?」
「蛮ちゃんはもう、たったヒトリの邪眼使いじゃなくなるんだよー」
「・・・・・・」
「世界でたった2人。蛮ちゃんとオレだけだなんて素敵だよね!」
「銀次・・・」
別にそれを意図して施したワケではなかったが。銀次の言うことはまぎれもない事実で。
蛮は心がほんわりと温かくなるのを自覚して驚いた。
(このオレ様が・・仲間が欲しかったとでもいうのかよ・・?)
「うーん、ホントに嬉しい。蛮ちゃんありがと!」
「・・オレの方が、何かイイもん貰っちまったな・・」
「んぁ?どしたの?」
「イヤ、いいんだ。何でもねぇよ」
(ったく。銀次のヤローはアホかも知んねーが・・・大事なコトを見逃したりはしねぇんだな・・)
銀次に出会えて良かったという想いが、あらためて沸き起こる。・・・が
モチロン蛮は表に出さなかった。
「さーてと。んじゃそろそろオメーが欲しがってた方のプレゼントをくれてやっか!」
「ちょ・・!オレ、欲しがってなんか・・!」
「よく言うぜ。こんなんなってるクセによ」
「・・・ぅ」
下半身の熱を指摘されて、銀次は真っ赤になった。
「銀次ィ・・コッチもオレ様にしか出来ねぇコト、だろ?」
「そう・・だ、ケド・・でも・・あの・・その・・違うってばぁ・・・」
支離滅裂な返事をほざく相棒などにはお構いなく。
「・・・っあ・・・ん・・・」
蛮はさっさと銀次の服を剥いだ。
「・・・ふっ・・ぁ・・ばんちゃ・・ん」
「ドッチが本当に嬉しいプレゼントだったか・・・後で教えろよな♪」
「・・・もっ・・蛮ちゃんの・・バカっ・・・」
蛮はまんべんなく、銀次の全てを『お祝い』してあげた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――♪♪♪
はぁ・・・なんとか間に合いましたね。
不現であるハズの邪眼をコピーするなんて、我ながら無理な設定デスけど(^_^;)
ま。銀次君のお誕生日に免じて(?)見逃してやって下さい。 お祭りだからねv
諸事情により体調不良が続いてたので、あまり出来が芳しくないなぁ・・って自覚は有るんですがー。
こんなんでも宜しければ、一応フリーに致します♪ お祭りだからねーv (←もうイイって?)
(もらってやったよーとご連絡下されば、這ってでも(怖っ)お礼参りに馳せ参じますデス〜。。。)
ではでは、一日早いケド。 銀次君誕生日おめでとう〜〜☆★☆ 2004.04.18. 真。