〈1000秒間のキス〉


  *****

      
      「んぁ〜っ!見てみて〜。・・・すごいよ蛮ちゃん」


  ドアを開けるなり、出窓に飾られた砂時計に
  感嘆の声をあげて駆け寄る相棒の後ろ姿に

  
      「車ってのはただ乗ってるだけの方が
       フツーは疲れるモンなのによ」


  運転ごときでヘタってしまった自分がちょっと情けなくて
  蛮はそんな憎まれ口をたたいてみた。
  

      「えーっ?なになに?蛮ちゃん何かゆった?」

  
  弾むような足取りでパタパタと戻ってくると
  そのままの勢いで抱き付いて来る。

     
      「おめーは、体力バカだって言ったんだ」

      「えぇー?何だよ、ソレー」
 

  呆れたフリをしてみても、そんな銀次を見ていると
  疲れも忘れるような気がして来て・・・ちょっとムカついてみたり。


      まーた銀次のヤローにやられてんぜ?オレ。


  蛮もたいがい、あきらめが悪い。


  *****


  
  『鳴り砂の街』と呼ばれるこの地域では
  砂時計も、また有名だ。

  奪還のシゴトで久しぶりの遠出。

  奪還自体は、拍子抜けする程簡単だった。
  その割には報酬も高かったので本来なら蛮は上機嫌なハズだったが。
  なにしろ、久々の長距離運転。

  ―――疲れていた。

  さすがにコレ以上の連続運転はキツかったので
  結局、泊まるコトにした。



  簡素だが清潔なホテル。

  部屋には砂時計。

  たくさんの砂時計。


       「キレイだねぇ。皆にも見せてあげたいね」

       「ねぇよ。イイもんは、オレ様なら
        ぜってー独り占めだ」

       「え〜?それはちょっと、ココロが狭いのでは・・・」


  2人きりの空間で。
  この自分の腕の中で。
  他人のコトに気をまわす相棒が小憎らしいから。
 

       「普段、独占されたがってるヤツの言うコトかぁ?それ」


  自分を棚上げして、そう言ってやると


       「独占も何も・・・オレは蛮ちゃんのモノだもん」


  お望み通りの答え。

  このあたりまでなら、まだまだ銀次をコントロールすることが出来る。


      (まだまだ、とか思ってる時点で終わってんな。オレも)


  しかし、実際問題、ここから先が危ない。
  近頃の銀次ときたら・・・


  *****


  サイドテーブルに置かれた一番大きな砂時計には
  金属のような光沢を放つ砂が詰め込まれていた。

  銀次はこれが一番気に入ったらしく
  ベッドから手を伸ばしては、途中でひっくり返して
  飽きることなく眺めている。

  どういう仕掛けなのか
  グラデーションで砂が落ちていく様子は
  蛮でさえも感心する程、キレイなものだった。


    「これね・・・銀色から・・・青に変わっていくの・・・」

    「逆さにしても、そうなのか?」

    「うん。何度動かしても、青くなっていくの」


  中途半端に残っていた砂が落ちきった。

  
  蛮が銀次の躰に手を伸ばすと、そっと遮られてしまう。

  
    「銀次?」

    「あのね、ちょっと待って」


  そら来た。

  銀次の無自覚な誘いを牽制して
  蛮は内心、身構える。


    「・・・あんだよ」

    「この砂が落ちる間、ずっとキスしてて欲しいの」

    「あ?・・・キスだけか?」

    「うん。コレね、ちょうど1000秒だって」


  それなら、別に異存はなくもないが。

  1000秒・・・16分40秒は、ちっと長くねぇか?


  理由は相変わらず銀次らしかった。


    「何でまた」

    「あのねェ・・・エヘヘv」


  自分の思いつきにワクワクした様子で
  くすぐったそうな笑いをもらす。

    
    「オレも・・・砂と一緒に、少しずつ蛮ちゃんの色に染まりたいんだv」


  これが。
  ねらって言ったセリフではないトコロが天然の実力。


    「・・・そんなら、覚悟しろや?
     オメーがどんだけ頼んでも、焦らし続けてやんぜ」

    「うん!受けてたつよvオレ」

    「・・・ったく。最近、ナマイキなんだよ・・・」

    「んっ?そうかなぁ・・・」


  
  生まれたままの姿を晒し、小首をかしげてフワリと笑う銀次を
  蛮はシーツにくるんで膝の上に抱き上げた。


  *****



  サラサラ・・・サラサラ・・・。

  静かな部屋に響く微かな砂の音。


  時折、湿った秘密の音。


  時間の波にたゆたって。
  2人でゆらゆらと漂う。


  銀次の熱を秘めた吐息も、密やかな喘ぎも
  みんな蛮が飲み込んでしまうから。

  砂の音がこの空間を満たしてゆく。
  

  
       抱き合うようになってスグの頃は
       激しい欲に流されて、焦ってばかりいたような気がする。

       溶かされて、煽られて、早くヒトツになりたくて。

  でも、今では。

       片方を少し吊り上げられただけで・・・全てを投げ出してでも
       手に入れたいと思わされる、蛮ちゃんのシャープな唇。

       薄くて、形が整っていて。
       触れると冷たいのかなって思っていた。

       コーヒーが好きで。わりとチェーンスモーカーで。
       受け止めたら、苦いのかなって思っていた。

       悪態や皮肉ばっかりこぼれ落ちる。
       そんな唇なのに。

       ずっと欲しかったんだ。

     

       やっと願いが叶って。

       アツくて、甘くて・・・。
       オレの想像はみんな反対だったって、知ったけど。

       手に入れたいってゆうキモチは、前より強くなったみたい。

 
  ・・・こんなにも、キスを楽しんでいる自分が居る。

  
  それはきっと、2人の絆が強まったから。


  キスは抱き合うための合図だけではなくて。

  キスは抱き合うための準備だけでもなくて。


  カラダでアイを縛らなくても、もうどれだけ
  お互いに溺れきっているのかを。

  2人で大切に確かめ合って来た甘い日々の合間に
  培われた密を味わうご褒美の儀式。

  だから・・・。
  


        ねぇ、蛮ちゃん。

        もっとちょうだい。

        オレも、

        もっとあげるから。



  こみ上げてくる切なさに、銀次が一筋の涙を流したとき
  ふと見ると、砂の動きが止まっていた。


    「あ。・・・終わっちゃった」

    「どうよ?余すトコなく染まったろ」


  仕上げ、とばかりに銀次の目尻に唇をおとす。


    「うん。蛮ちゃん、ありがと。
     オレのワガママ聞いてくれて」

    「そんで、嬉しくて泣いてんのか?」

    「・・・わかんない。でも、悲しくて泣いてるんじゃ
     ないコトだけは、確かだよ」 

    「そっか?んじゃぁ・・・今度はオレ様のワガママ聞けよな?」


  シーツと、腕と、甘いトーンで銀次を包み直して。
  蛮はワザと曰くありげにニヤっと笑った。
 

    「う。それはまだ・・・オレ、受けてたてない・・かも」

    「言っとくが、コッチは1000秒じゃ終わんねーからな」

    「んっ・・・・・・」

  
  あらためて
  蛮は銀次の唇を塞いだ。

  

    ―――官能的という言葉を、身をもって知ったのは、この唇。

        いつだって、自由奔放に
        相棒から、急にコイビトのカオを見せる銀次に・・・
 
        たまらずに仕掛けるのは、いつもオレの方。


 
        1000秒間のキスで染まったのは
        お互いサマだなんてコトは・・・

     ―――今はまだ、ぜってー教えてやんねぇ。




  蛮は砂時計を横倒しに置いた。

  そうすれば。


  2人のこの一瞬を、永遠に閉じこめられる気がしたから。




     
     











――――――――――――――――――――――――――――♪♪♪



  1000HIT感謝のフリーSSです。

  美堂サンがちょっと感傷的ですか?
  でも、まぁ基本的に
  
  『銀次にメロメロだけど、それを抑えてモエてる蛮』

  というのがワタクシ個人のツボでして(笑)。
  ヘタレすぎないようにするのが、難しいトコロです☆

  未熟なSSを拾って下さった方、読んで下さった方v
  ありがとうございマスv


     2003.10.19. 大沢 真





  










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