〈at the very moment〉

 
 *****



   うなだれた銀次の唇が強く噛み締められているのを見て
   蛮は、ふと『似合わねぇ』と思った。

   
   そうさせたのは、自分なのに。


   何時塞いでも柔らかな弾力で蛮を受け止める唇。

   歯をたててイイのはオレ様だけだ。
   オレが蹂躙しているとき以外は、笑ってろ。


   そんな勝手な思いが頭をよぎる。



   事の発端は、銀次の側にあるとしても
   あんな辛そうなカオにさせる言葉を吐くつもりはなかった―――




 *****




   なけなしの金で刷ったビラを撒き終わり
   本日のシゴトは終了!というコトにした。

      
      
      「んぁ〜、疲れたー。帰ったらまずお風呂だね」

      「ったく寒ィな。熱燗で一杯、ってな気分だ」



   11月から飾られているクリスマスのディスプレイを
   すでに見飽きた新宿通り。



      「えー。蛮ちゃん、オヤジくさいー」

      「あんだとー!」

      「あーもう、何で蹴るのさぁ〜って、アレ?今日は殴んないんだね」

      「・・ポケットから手ェ出すと、寒ィだろ」

      「あはは。ホント、寒がりだよね。蛮ちゃんは」

      「うるせーぞ」
      
   
       

   コートの襟やマフラーに顔を埋めて、家路を急ぐ人々のなかで
   寒い、と口にしながらも、アツアツの2人。


   今日も何事もなく(いや、シゴトが無かったのは正直ツラいが)
   無事、一日を終えるかと思いきや。

   

      「あ。オレ、ちょっと買い物したいんだ〜。蛮ちゃんガマグチ借して」

      「あ?何買うんだ」

      「え?うん、ちょっと、お菓子とか」

      「あー?またかよ。あんま金ねぇんだぞ?っつーか、何で『借して』なんだよ」



   一緒に行かねーのか、と言いそうになって蛮は内心苦笑した。
   コイビトとはいえ、ガキじゃあるまいし。

   銀次がそうしたがるから、いつでも2人一緒にいて。
   ・・・それが、どうやら蛮にまで習い性になっていたらしい。

   

      「えーっと〜。蛮ちゃんは、寒いからテントウ虫君の中で待っててくれる?」

      「・・・そりゃ、別に構わねーケド」



   だから銀次が別行動をしたがると、まぁ、勘ぐりたくもなるワケだが。
   銀次を束縛するつもりはないし、何か考えあってのコトだと思って
   蛮は仕方なくサイフを渡した。


     
      「ありがとー。じゃぁスグ戻るからね!蛮ちゃん」

      「・・・おう。迷わず帰って来いや」



   そう言って送り出したまではよかったが。

   やはり。

   後悔するハメになった。




  *****
 
   

   

      「おい銀次!あんだよこの買い物は!!」

      「えへへー、スゴイでしょ? 明日はお金が手に入るって
       今朝、蛮ちゃんがゆってたから。・・思い切って奮発しちゃった〜」



   方向音痴を返上したわけではなかったが
   流石に毎日通うトコロで迷ったりはしなかったようだ。

   その分、どうやら血迷ったとしか思えない。
   普段のエンゲル係数からはお呼びでない、デパートの
   包装に蛮は冷や汗をかいた。



      「ぎ・・・銀次ィ?こりゃ、一体どーいうつもりだ?」

      「あのね、誕生日プレゼントだよv 蛮ちゃん、おめでとう!」

      「・・・あ?」

      「ホントは今日、朝から言いたくてたまらなかったんだ〜。でも、
       何も用意してなかったからさぁ。今までガマンしてた!」

      「あ・・・あのなぁ、銀次・・・」

      「おめでとう〜!おめでと、蛮ちゃん!今年もね、一緒に
       お祝い出来て、オレ、すっごく嬉しい!!」

      「銀次・・・」

      「蛮ちゃんが、蛮ちゃんが生まれて来てくれた日だよ!オレの
       一年で一番大切な日だよ〜!」

      「銀次!!!」

      「なぁに?蛮ちゃん」



      「今日は、16日だ!!」

      「・・・え?」



      「それと・・・金はもう手に入らねぇ。テメーのせいでな!!」

      「・・・・ええ〜〜!?」

 



     ―――銀次は、日付を間違えていた。
     すっかり今日は17日だと思い込んでいたのだ。


  
    明日、朝一でパチンコ屋に詰め掛ける予定だった。
    その元金を使われて、蛮は腹を立てていた。

        『今度は絶対、ちょっとオシャレなレストランでお祝いしよv』

    去年の銀次のコトバを覚えていたから、資金を稼いでやるつもりだった。
    テメーの誕生日なんか、ホントはどうでもイイし
    自分で稼ぐってのもどうよ、とは思う。


        それでも銀次が喜ぶのなら・・・

    ガラにもなく、携帯サイトでレストランガイドを
    覗いてみたりもした。




     ―――蛮は、言い方が悪かった。
     スる可能性は大いにあるし、確実でもないのに。
     金が入る、と銀次に言ってしまった。


    何も出来ないけれど、前に蛮ちゃんが飲みたいとゆった
    ワインを見付けちゃったから。

    いつもなら絶対買えないけど、ワインフェアってゆうヤツだから
    半額になっていたんだもん。



         ただ、蛮ちゃんに、喜んで欲しかっただけなのに・・・


    ナイショで勝手にお金使っちゃったし
    今日が誕生日の日って思ってたオレが悪いんだけど。


    でも・・・でも・・・・・・。


         『オレ様の誕生日に限って間違えんのか?テメーは』


    蛮ちゃん、ゴメン。ゴメンネ。
    いつものような、怒鳴り声じゃなかったから。
    独り言みたいな声だったから・・・きっと、本気で怒ってる。



      「・・・ゴメンネ、蛮ちゃん」


    銀次は唇を噛み締めた。



   *****



    気まずい沈黙が車内を占めていた。

    後部座席に転がった、半分剥かれたボトルが切ない。

    今の2人みたいに。


    
            本当は、蛮にはワカっている。
            互いを思うが故の、すれ違いだと。


           「好き」という気持ちが強すぎて。

            あふれた想いがこぼれ落ちると
            受け止めてくれない相手のせいにしたくなる。

            やっかいな、この気持ち。


            大切に思えば思うほど、気負って、空回りして、ハズした時は辛い。
            けれど、『思う』だけでは気持ちは絶対伝わらないから。


    テメーの苛立ちは
    紫煙に乗せたため息で吐き出した。


    
      「銀次。オレ様専用の唇に、傷を付けたくねぇんだケド」


 
    くわえタバコで蛮がボソっと声をかけると
    銀次がハっとしたようにカオを上げた。

    真摯な潤んだ目を見開いて
    縋るような視線を送ってくる。



      「・・・前夜祭、ってコトにしてやんよ」

      

    言葉の内容よりも、蛮の声音の柔らかさが嬉しくて。
    褐色の瞳が、更に潤む。



      「イイじゃねぇか。前祝いだろ?テメーにしては、気が利くな」


      「蛮ちゃん・・・・・・!」



    雲間に光が射すよう、とか、雨上がりの空が晴れ渡る、とか。
    陳腐でもありきたりでも、何でもイイ。



    だって、こんなにも。


    こんなにも、自分の言葉一つで銀次の表情が変わる。


      「銀次、ありがとな」


    抱きしめる。


      「・・・んで、悪ィ。・・・ンなコト言って」

      「ううん!オレこそ、ゴメンネ。蛮ちゃん」


    抱きしめ返される。



    腕一つ分の距離を、あんな遠く感じるなんて、もうゴメンだ。


   
   *****




          挿れたまま。

          繋がったまま日付が替わり、17日をむかえた。




             「・・あっ・・・ん・・ばんちゃ・・・誕生日・・おめでと・・」

             「・・なぁ、銀次。・・こんだけオレの側で・・祝ってくれたヤツはいねーぜ?」



          コレ以上近くなんざ、あるワケねぇ。
          自分で言った言葉に蛮が苦笑を漏らした。

         

             「んっ・・・なんで・・そんなに・・・・余裕あるの・・さぁ」



          もうさんざん、蛮をカンジてくたくたな銀次が
          ちょっと悔しそうに言い返す。



             「・・そりゃぁ、オメーよりか・・1つオトナだかんな」

             「じゃぁ・・オレを・・・もっとリード・・し・・て」


          
          何よりも極上なプレゼントを味わって。
          
          最高の、バースデイ。


    
          きっと、来年も。

          ―――――これからも、ずっと。









―――――――――――――――――――――――――――――――――♪♪♪








  前日にケンカして、仲直りして、シたままバースデイvv
  締め方がいまいちベタですが(笑)
  絶対書きたかったシチュエーションですv


  美堂さん、ちょっと早いケド、お誕生日おめでとう!!





    2003.12.15.  by 真。  

  











 

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