〈Bitter and Sweet Coffee〉

 酒。タバコ。女。
 いわゆるオトコの通り道。
 けどよ。
 オレは・・・オレ達は「酒」じゃぁ、なかった。
 
  初めてタバコを吸った時や、
  初めて女を抱いた時よりも。

  初めてコーヒーを飲んだ時のコトを、よく覚えている。
  初めてコーヒーを淹れてやった時のコトも。

 そんでよ。
 「男」ってのも、通った。

 ***

  小口の奪還をサラッとこなして、スバルに乗り込む。
  オレはビールとタバコ。
  銀次はテイクアウトのカップコーヒー。
  それぞれ買い漁って、ウチに帰る。
  
  今日はわりかしイイ一日だったぜ。
  さぁて。
  仕上げはとーぜん、コイツと・・・。

  あ?なーにをカップとにらみ合ってんだ?
  ・・・ありゃあ、ウインナーコーヒーかよ。
  ・・・・・・懐かしいもん、買ってきたな・・・

  
  「やっぱ、蛮ちゃんも不思議?」

  「あ?」 

  「だってこれ、ウインナーコーヒーって書いてあんのに、
   ウインナーが入ってないよ?」

  「・・・また、おめーは。そーいうお約束を言うかよ」

  「お約束・・・かなぁ?」

  「だいたい、んなもんコーヒーに入れっか?フツー」

  「ちがうよぉ。オマケで付いてるかと思ったんだよ」

  「・・・あのなぁ。ウインナーはウインナーでもよ、
   ドイツの地名から名付けてあんの!」

  「ふぇ〜。そうだったんだ !でも、ウインナー入ってなくても、
   オレ、このコーヒー好きv苦くって、でも甘いの」

  「―――。」


      『オレこのコーヒー好き。苦くて、甘いね』
      そりゃ、オレが昔言った言葉だ・・・。


  「蛮ちゃん?どしたのボーッとして。珍しいね」  

  「ん?あ、イヤ・・・このコーヒーには、ちょいとした思い出があってよ」

  「えー、聞きたい。教えてよ〜」

  「ちっ。んなたいしたコトじゃねぇよ」

  「うーそーだ。・・・だって、蛮ちゃん、すごく
   キレイな顔してたよ?このコーヒー眺めてるとき」

  「あ?」

  「だからきっと・・・すっごくステキなコト、思い出して
   たんだろーなって。思っちゃった」

 「・・・んなワケねーよ」

  「もしかして、イヤな思い出なの?・・・だったら、オレ、
  聞かないでおく」

  「イヤってわけでもねェ・・・」

  「じゃぁ、教えて。おーしーえーてー」

  「わーったよ」


    まだ、ドイツに居た頃のはなし。
    食後に、いつもババァはコーヒーを飲んでいた。
    生クリームがたっぷり乗ったヤツ。
    子供の目から見れば、そりゃぁウマそうなヤツ。
    
    オレも欲しいっつったって、いつも答えは同じ。

     『子供が飲むものではありません』 

    すっげー濃いコーヒーだからなんだとよ。 
     
    禁じられたら尚のこと、飲みたくなるのがガキってモンだ。
    ましてや、悪友と一緒の時なら。  

  
  「そんでよ、ババァに隠れて飲んだらひっくり返っちまったんだ」

  「え〜?蛮ちゃんが?」

  「いや、オレじゃねーけど」

  「・・・?」


     アイツだよ。

    兄貴ぶって、オレにヘンなことばっか
    教えやがって。     

    オレにも寄越せ・・とかって口移し。
    その瞬間、アイツは特別な存在になったんだ。
    ま、そんときゃ理由が解ってたワケじゃねぇが。

    2人ともガキだったしよ。・・って、アイツには
    すげーイミがあったらしいぜ、ったく。
    何しろ、『正式な飲み方はこうするんだ』
    とかぬかしやがって。いちいち口移し。
    ・・・信じたオレもバカだったケドよ。    

  「・・・夏彦」

  「うわぁ。あんな強いヒトが?」

  「あぁ」

  「ふぇ〜。本物のウインナーコーヒーって、
   そんなに濃いの?」

  「そっ。何しろ昔、『本場仕込みのウインナーコーヒー
   飲みたい』なんて卑弥呼に言われてよ。
   本格的なヤツ淹れてやったら、速攻で      
   ぶっ倒れたくらいだかんな」

  
    卑弥呼も邪馬人も、大切な仲間だったから。
    思い出のコーヒーってヤツを淹れてやった。

    

  「ねっ。それでそれで?そのあとどーしたの?」

  「んっ?・・・あぁ、あんときゃぁ、邪馬人にぶん殴られた。
   『子供に何飲ませてやがる!!』・・・とかって」



その誤解で邪馬人とマジでケンカやらかして・・・。

     
  「ふーん。卑弥呼ちゃん、あんなに毒には
   強いのにねぇ」

  「ククッ。そんだけアイツもガキだったってコトだ」  

  「邪馬人さん、解ってくれた?蛮ちゃんって、
   イイワケしないからさぁ。」

  「どうせ、聞かねェもん」

  「ダメだよー。すぐ仲直りしなきゃ」 


    んで、その夜、あのヤローは言葉であやまる
    代わりに・・・・・・。
    まぁ、拒む気はさらさらねェけど、もうちっと
    マシなシチュエーションでヤれなかったのかよ。


  「・・・・・・まぁ、な・・・その・・・なんだ・・・」

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  「あ!そっか。・・・そっか・・・それで、あんなに
   キレイなカオしたんだ・・・」

  「・・・昔の話だっての」


    あー。こーいうコトは察しイイんだよな、おめーは・・・


  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  「・・・えへっ。蛮ちゃん、いろんなヒトにアイされてんだね」

  「そんなんじゃねェよ」

  「いつも、『ロクな過去じゃねェ』とかゆってるけど・・・
   楽しい思い出だって、あるんじゃない」  
           
  「あ?楽しいか?」

  「オレは、ずっと、無限城にいたからさぁ。
   ・・・それどころじゃなくってさぁ・・・」



  「・・・ワリィ。おめーの前で、こんな話なんかしちまって」


  「!オレが話してってゆったんだから。蛮ちゃん何も
   ワルくないじゃない!・・・オレこそ、なんかグチったりして
   ゴメン・・・ちょっと・・・いいなぁって・・思って・・・」  
    
     
     ちきしょ。泣かれちまった。     
     なぁ、銀次。昔がどうであれ、
     今、ココに居るのはおめェなんだ。 


  「・・・敵に回ったヤツや死んじまったヤツに嫉妬しても
   仕方ねーだろ・・・」

  「ちっ・・・ちがうよ。オレは、ウレシクテ泣いてんのっ!
   しっとなんかじゃナイよ?」

  「銀・・・?」 


  「オレは・・・オレは蛮ちゃんがホントにツライ過去を
   背負って来たって・・・知ってたから・・・楽しいコトも
   ちゃんと大切にしまってあったコトが・・・うれしくて」

  「銀次・・・」

  「よかった・・・」

  「・・・そっか」



     何て言やぁいいんだ?
     何で、こうも、コイツは・・・柔らけェんだろな? 
         
 
  「ばーか。まだ20年も生きてねーんだ。
   これからイヤっつーほど、とりかえせんだろ?
   楽しい思いでとやらを・・・おめーならよ」

  「蛮ちゃんも・・・一緒だよ!」

   
     とかって、言うと思ったぜ?
     おめーは、ホント、真っ直ぐなヤローだな。


  「誰かに、蛮ちゃんとの思いでを話すなんてイヤ。
   オレは、ずっと、蛮ちゃんと・・・思い出話をして
   バカ言っていたい。何十年たっても、話していたい」

     言葉にはしてやれねェ・・・けどよ。
     思いは同じだ。おめーと。

       
  「何十年も・・・かよ。そん頃はジジイだな、オレら」

  「どんなおじいさんになってても、オレ、蛮ちゃんが好き」

  「どんな・・・ってのもひっかかんな、おい」 
 
  「・・・それでも、好きv」


 
  「・・・コッチ来いや。銀次」

  「うんv」


 
   
     夏彦と戯れて飲んだ、ウインナーコーヒー。

     ソイツを初めて他人に飲ませてやった夜、
     邪馬人に抱かれた。     
               
     この苦くて甘いコーヒー。

     コイツにまつわる思い出話は、
     銀次、きっと、おめェで終章だ。








――――――――――――――――――――― 
 
    




   う〜。蛮ちゃんココロの独白、多すぎ。
   でもきっと、銀次の前ではホンネを
   言わないタイプ、だと思うんですヨ。
 
   CDドラマ風にしたくて、わざと地の文を
   書かないようにしてみたんデスが・・・
   状況がわかりにくくて、ちょっと失敗!
   
   セリフだけで話を進めるのって、ムズカシイ。


 2003.07.21 by 真。




  
    
 

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