〈衣替えした日に・・・〉
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―――このオレ様としたことが・・・
己の下半身をジワジワ締め付けるモノをチラリと見やると
蛮はもう一度、慎重に試してみた。
―――やっぱし、入んねぇな。
いささか情けなく思いつつ、もう少し頑張ってみる。
未経験の事態に戸惑い、アツくなる呼吸を整えた・・・が。
―――クソッ。・・・ムリか。
思わずため息を付いた。
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このまま美堂サンにまかせていると、あらぬ誤解を受けそうので
説明します。
・・・何のことはない。
ズボンのチャックが閉まらないのですよ。
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「んぁ〜。おなかすいたぁ。蛮ちゃん準備出来た〜?」
ビラ配りの前にたまには外で朝飯を食おう。
起き抜けに蛮がそう言っておいたので、銀次はヤケに張り切っている。
全く悩みのない顔で、さっさと着替えを済ませて
『朝マック♪ 朝マック♪』などとタレ踊り。
・・・ったく。
コッチはくだらねーコトで取り込み中だってのに・・・。
「蛮ちゃん、どしたの?下向いたまんまで。二日酔い?」
「あ?ちげーよ。何か、キツくてよ」
いつも着ている服ならば何の問題もなかった。
10月に入り、だいぶ涼しくなってきたので
衣替えをしたらこのザマだ。
「ふぇ?何でキツイの?」
「んなこたぁ、コッチが聞きてぇ」
細身で、少し厚手の黒いチノ。結構気に入っていた。
去年は確実に着れていたのに。
「うーん。蛮ちゃんが飲み過ぎなんじゃん?
昨日だって、缶ビール4本も飲んだんだよ・・・4本も!」
「うるせーな」
ビールっぱら、なんていう言葉がチラリとアタマをよぎったけれど。
蛮はあえて無視した。
ファスナーが上がらない。それだけのことだ。
―――そう思ってみたトコロで、現実はかわらない。
理不尽じゃねーか?。・・・ムカつくぜ。
意地でも履いてやるか。
諦めて着替えるか。
アホらしいとは思いつつ、しばし逡巡していると
何を思ったか銀次が蛮の背後から腰に抱きついて来た。
「のわっ。何すんだ、テメっ」
「蛮ちゃん太ったってコトも無さそうだしねぇ。
相変わらず、こんなに細い〜v」
蛮の苛立ちにはおかまいなしに
ウエストあたりに腕を絡ませる。
「おなかだって、削いだみたいにキレイに引き締まってるよ?」
銀次には、そんなつもりは無いのだろうが。
非常に微妙な位置で蛮のハラをサラサラと撫でた。
「―――いつまでそーしてる気だ?」
不機嫌そのものの声音で言ってやったのに。
「えへへー。蛮ちゃんの背中、あったかーい」
ノーテンキそのものの返事で更に抱きつく。
布地を通してほんわりと伝わってくる銀次の温もりが新鮮で・・・。
なにしろ、いつもは直に抱き合ってばかりの2人だから。
「〜〜〜ひっつくな!!おめーはいいけど
オレ様の下半身は素肌に近いんだ!」
「ふぇ?・・・蛮ちゃん、カンジちゃった?」
いたずらな笑みで、ひょっこりと蛮の肩口からカオをのぞかせる。
「アホなコト言ってっと、この場で犯すぜ?」
コレ以上銀次にもってかれては、たまったモンじゃない。
あしらうつもりで蛮は身を翻したのに。
「キャ〜。ダメなのですv」
逃げるどころか、今度は首に抱きついて来た。
さーてコイツをどうしてやろう・・・などと蛮が思案していると
「あれ〜っ?」
不思議そうに蛮のカオを見上げて、そして―――
―――突然の、キス。
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珍しく銀次からのアプローチ。
据え膳な銀次もワルかねぇが、っておい。
喰われてんのはオレか?
主観的には至って冷静に、そんなコトをつらつらと思ったけれど。
端から見ればただ呆然と立ちつくして
唇を奪われている無敵(?)の男。
常日頃、舌先ヒトツで(言葉然り、キス然り。)銀次をいいように
弄ぶ蛮ではあるが。
(んな状況じゃキメようがねぇし。)
下っ腹晒してりゃ、何したトコロでお笑いだ。
半ばあきらめの境地で銀次の好きなようにさせておいたら・・・
「うぅ〜。蛮ちゃんって、ズールーイ!!」
唇を離すと、なぜかぷっとふくれっ面。
「・・・あ?何言ってんだおめーは!
このオレ様からいっちょまえにキスをかすめ奪っといてよ?」
「だぁってぇ〜。オレ、上向かなきゃなんないじゃん」
「あ?」
「ほらっ」
「おっと」
2度目は流石に余裕でかわして
銀次の顔面を右手で鷲掴みにしてやった。
「んぐっ・・・ばんひゃん・・いつのまに・・・
オレより大きく・・・なったんだよぅ」
ふごふごとくぐもった銀次の言葉に、蛮もハタと
気が付いた。
そっか。
どうやら、この一年の間に背が伸びたってワケか。
春先から夏にかけては、ゆったりとした服しか着ていなかったし。
まさかこのトシで成長するとは思いもしない。
2人して立ったまま
キスを交わすなんてシチュエーションもなかったから
今まで、気づかなかったのだ。
あつらえたようにフィットしたデザインの服が
入らないのもムリはない。
しかも。
たった3,4pそこいらとはいえ『銀次より大きい』
というコトは、蛮にとっては非常にナイスなツボだった。
「クッ。あんだよ。そーいうコトかよ」
蛮はとたんに上機嫌。
「ううー。ばんひゃん、離ひてよぉ〜」
「おぉ、ワリィ。忘れてた」
ついでに主導権も取り戻す。
離すどころか、そのまま強引に引き寄せて
「銀次・・・真っ直ぐ立って・・・じっとしてな」
低めの声で、耳元に囁いた。
「え?な、何で?」
甘い響きに少しドギマギしながらも
銀次は言われたとおり、素直に直立。
「おし!そのままちっと待ってろ」
そう言って銀次を解放すると
ハンパに腰に引っかけていたチノパンを
おもむろに脱ぎ始める。
「ば、蛮ちゃん何してんの?」
「あ?ナニしてやってもイイんだけどよ。ちょいと
試してみてぇコトがあんだよ」
ますますドギマギする銀次を面白そうに見やって
脱いだズボンをその辺に放り投げた。
「こ、これから朝ご飯食べに行くんだよね?」
「おうよ?」
「じゃぁ、何で脱いでんの?」
「まぁ待ってろって」
何をするかと思いきや
そのままスタスタと銀次の前を通り過ぎて行く。
「蛮・・・ちゃん?」
銀次の戸惑いを無視してクロゼットへ歩み寄ると
適当に物色したジーンズを履いた。
「よっしゃ、準備完了」
「そ、そうなの?じゃぁ、もう出かけられるね」
自分はもっと突拍子もないコトをするクセに
蛮の意図が読めなくてタレかけていた銀次が
ホっとしたのもつかの間。
「やっぱし、こうでなきゃな?」
蛮はバトル仕様の素早さで相棒の目の前に立つと
銀次が答える間もなくその両肩に手を置いて、キスを仕掛けた。
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「んっ・・・んぅ・・ばん・・ちゃん・・・」
さっきは自分が伸び上がるカタチだったから
軽く触れるようなキスしか出来なかった。
コレがその仕返しだとしたら
やっぱり、蛮ちゃんは、ズルイよぉ・・・。
なにしろ肩を押さえられて、上から唇が降りてくる。
避けられない。(避ける気はナイけど・・・)
キスの雨。(心地イイけど・・・)
うーん。何だかなぁ〜。
うぅ。
どーしたって、蛮ちゃんにはかなわナイや・・・vv
知らぬ間に背丈を追い越されて
ムクれていたコトも忘れてしまうほど。
蛮のキスは優しかった。
「・・・身をかがめてテメーにキスをくれてやるってのは
イイ気分だな?」
「蛮ちゃん、もしかして・・・今まで身長差気にしてたの〜?!」
「ば、バカ。オレは別に・・・」
「うぷぷ。たった1pの差だったのにねv」
「うるせーよ!」
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惚れた弱みをひた隠して『オレ様』で居続けるのも・・・。
・・・コレはこれで、ナカナカにタイヘンなようです。
―――END
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勝手に美堂サンの身長伸ばしてしまって
スミマセン〜☆
しかも、ちょっとヘタレぎみ(-_-;)
本来は、こんな細かいコトは
気にしないヒトだとは思いマスが・・・。
(18にもなって、果たしてそんなに背が伸びるものか?
というツッコミもナシという方向でお願いします!)
や。でも蛮銀好きとしては
蛮ちゃんが大きい方が、何かと都合がいいのです(笑)。
今更ですが、彼らは部屋持ちの設定として
お読み下さい。
もっと甘〜い話にしたかったのですが・・・うーん。
季節の変わり目によせての
日常のヒトコマ・・・ってコトに
しておいて下さいマセv ←あ。逃げた。
2003.10.27. 大沢 真。