〈 LOVER'S LINES 〉




     *****


       「蛮ちゃん、いつから、オレのことスキだったの?」


   またまた銀次の問題発言に、蛮は思わずコーヒーを噴きだしてしまった。


       「・・・キッタナイなぁ・・・もう」

       「おめーがアホなコトほざくからだ!」

       「へぇ〜。蛮ちゃんでも動揺するコト、あんだね〜v」


   キョトンとした表情で、更に追い打ちをかける。

   それでいて二言目には『蛮ちゃんって、カッコイイ〜』などと
   ウットリと見上げてくるから、たまったモンじゃない。

   
   これがほんっとに「天然」だから、分が悪い。


       「あ?この状況のどこがイイってんだよ!」

       「んーと。そうやって、グイって顔拭ってるとことか・・・」

       「んなコト誰だってすんだろが!」
   
       「あのね。やってるコトがカッコイんじゃなくて。
        蛮ちゃんが、カッコイイのv」

       「あ?」

       「何してても。何もしてなくても、カッコイイの。・・・大好きv」

       「・・・へえへえ、そりゃどーも」

    
   手放しでホメてくれるのはありがたいが。
   どうせなら、もう少しキマってる時に言ってもらいたい。

   ―――思わず人並みなコトを考えてしまう蛮であった。



     *****

   
   依頼の品が積まれたと思われるトラックを追ううちに
   深い山道へ入り込んでしまった。
   肝心のトラックは見失い、おまけに慣れない山道で迷っていたら
   日が暮れてしまった。

   人気の全くない、暗い山道であったが
   幸い飲み物の自動販売機を見つけることができた。

   ガソリンも残り少ないことだし   
   これ以上下手に動くと危ないだろうから
   今夜はここで朝を待つことにした。

   奪還を諦めたわけでは決してない。蛮の見立てでは
   夜が明けさえすれば幾らでも手だてがある。

   とはいえ、
   スバルを振り切られたコトと、銀次並に迷ったコトで超不機嫌だった蛮は
   

       「テントウ虫くんで、蛮ちゃんと一緒に寝るの、ひっさしぶり〜」

       「部屋借りれるようになったのは、いんだけどさ。たまにはこうして
        過ごすのもいいよね〜v」 


   などど、無邪気にはしゃいでいる相棒を見て溜飲を下げ
   やれやれとばかりに缶コーヒーに口を付けたトコロで


       『いつからスキなの』・・・と、かまされてしまったのだ。

   
   長い夜になりそうな気配。



     *****



       「ねぇ、蛮ちゃん。あのころはさぁ。眠れなくて
        いろんな話してたこと、あったよねー」

       「・・・あぁ、まーな」



   一方的にしゃべっては、蛮が返事をする間もなく
   瞬時に眠ってしまう銀次ではあったが。

        (ムカついて殴っても、起きやしなかったがよ・・・)

   確かに、このスバルの中で。2人だけの空間で。
   ・・・少しずつお互いを探り合って来たのだ。

        (・・・お互い?
         イヤ、銀次のヤローは何時だってバカ正直に生きてっからな。)
     

   眠りに付く前の、ほんのひとときにだけ。
   過去や本音を時々こぼしていたのは、主に蛮の方だ。

   全てを一人で背負い込んで、口にするのは皮肉や悪態ばかり。

   本心なんざ、誰にも見せない。―――見せられない。
   その必要もないと思っていたハズなのに。

   夢うつつの平和そうなアホ面に『ダマされた』みたいなものだ。
 
   どうせ聞こえてないと思って、ふともらした蛮の言葉を
   銀次は時も場所もわきまえずに蒸し返す。

   何を今頃、やっぱ聞いてんじゃねーかおめーは、とか何とか言って
   とりあえず、殴る。

   そうやって『いろんな話』をして来て・・・今に至るワケだ。


        (・・・って、どーいうワケなんだよ?)


   些か自嘲気味の苦笑を蛮がもらすと
   

       「あ〜。蛮ちゃん、何か思い出し笑いしてる?」


   銀次がひょいっと顔をのぞき込んで来た。
   その首に腕をまわして、ついでに視線を捕らえる。

   自分ではかなり気にくわないし、めったに人目には晒さない魔性の瞳。
   コイツを真っ直ぐに見つめることを許したのは、銀次、ただ一人。

   それを知ってか知らずか
   屈託のない笑顔で柔らかな視線を送り返してくる。
   褐色の甘い瞳を直に感じたくて、蛮はサングラスをはずした。


   何の憂いもなく目を合わせるコトの出来るただ一人の相手。
         
          
   ・・・万感の想いを押し隠して
   蛮はワザと乱暴に銀次の唇を奪った。



        「あ・・・シゴト中は・・・ダメ」

        「相変わらず・・・カテーこと・・・言いやがって」


     
   本気でこれ以上のコトをするつもりはないが。
   銀次の『ダメ』は、ヤケに色っぽい。

   しかも。

   ダメと言いつつ、蛮の与えるキスを
   一つ一つ大切そうに受け止めるから・・・。

   つい、からかってしまいたくなる。


        「そんなにヤなら、口閉じてろよ?」

        「もう・・・イジワルだよぅ。蛮ちゃんは!」

        「そうかよ?んじゃぁ、かまうのヤメっかな」

   
   スッと身を離すと、蛮は窓を少し開けた。
   タバコをくわえてジッポをまさぐっていると

         
        「オレ、蛮ちゃんのキモチが時々わかんないや」

   
   銀次が小さく呟いた。

           
        「あ?」  

        「オレも邪眼使えたらよかったのに」


   更に小さな声。

        
        「何だよ、急に」

        「・・・なんでもナイ」

        
   答えたくないのなら、あえて聞き出すこともないだろう。
   素知らぬフリで、蛮はタバコに火を付けた。



   ―――あと2,3時間で夜も明ける。


        「少し眠っとくか」


   器用なくわえタバコで相棒に声をかけた。


        「うん!そうだね!!」

   
   妙に明るい返事。

   さっきのは独り言です・・・と、銀次のカオに
   ムリヤリ書いてあった。



    *****



       わざわざ寄り添って眠るまでもねーだろう。
       夜明け前とはいえ、それほど寒くはない。

   そんな風に、わざわざ理屈をこねて蛮は自分を納得させた。

   いつもならベタベタとまとわり付いて来るハズの銀次が
   今日に限っては自分の隣でおとなしくしている。

   そうすると、おかしなもので蛮の方からは手が出せなかった。

  
   キスやそれ以上のコトが前提のときは、銀次を幾らでも
   自分の思うがままに扱うクセに。

   ―――要は「甘える」なんてコトは、絶対に、苦手で。

   銀次に「甘えられる」コトに慣れすぎてしまっているから。

    
   手を伸ばせば届く。
   そんな、微妙な距離から銀次が声をかけてきた。
   
  

      
        「好きな人のことは、何でも知りたいって思わない?」

        「おめーは、わかりやすいかんな」



   そう言いつつ、銀次の額を小突こうと
   蛮が体を起こしかけると・・・銀次が突然身を引いた。


        「おい、銀次?」


   名前を呼ぶと、あわてて真っ赤になったカオを背ける。


        「どーしたんだ?」

        「ばっ・・・蛮ちゃんってばぁ〜」


   今度は、急に抱きついてきた。

   一体何なんだと、少々呆れかけたとき


        「・・・オレは、一般論を聞いたつもりだったのです・・・」


   消え入りそうな銀次の声に、無敵の男はしばし硬直した。


       『好きな人』のことを聞かれて
       ごく自然に『おめー』と言ってしまったのだ。


   さんざん躰を重ねてきたのに。
   
   蛮はまだ一度も、銀次への想いを
   ハッキリと言葉にしてやったコトがない。


   ・・・出来なかったのだ。今まで。
   つまらない、プライドのせいで。


   銀次の天然な誘導尋問は・・・とうとう蛮の自白を勝ち取った・・・のに。

   

        「ねぇ、蛮ちゃん・・・蛮ちゃんのスキなヒトって
         ・・・ほんとにオレなの?・・・」


   勝利者にしては、あまりにも不安げな声。
   蛮の肩口に顔を埋めて、少し、震えている。


   プライドは高いが立ち直りも早い男は
   相棒の勝利を揺るぎないものにしてやるコトに決めた。

   

        「今更何言ってんだ。おめーは」

        「・・・オレの最初の質問、はぐらかされちゃったし」

        「あーんなタイミングで言うからだろが」

        「その後も・・・もう構うのやめるってゆったし・・・」

        「そりゃ、おめーがキスを拒むから」

        「拒んでないじゃん!」

        「んな、怒るなよ」

        「だって・・・」
    
        「いいコト教えてやっから」

        「・・・・・・何?」



   銀次の顔を上げさせて、胸にしっかりと抱え直すと
   金糸の前髪に囁いた。


        
        「銀次・・・オレは、銀次が好きなんだよ」
  
   
   思いっ切り、甘く、優しく。
   蛮は銀次に囁いてやった。



    *****




   ひとしきり、泣いて、笑って。

   それからの銀次は、そりゃあもう、タイヘンだった。

   何しろ寝ようとしないのだ。
   『今日は寝ちゃうのもったいない』だなんて言って。

   
   まるで子供のようにはしゃいで、ずっとしゃべっていた。
   『最初の質問にも答えてねv』だなんて言って。

   
   

        「前から蛮ちゃんのコトがスキで。
         オレ、蛮ちゃんの側にはずっと居たけど。
         ・・・そのうち彼女とか出来て
         一緒には居られなくなるのかなーって、不安だった」

        「バカじゃねーの?」

        「うっ。ヒドイ〜」

        「ちげーよ!よく聞けって。
         オレがその程度にしか気にしてねーヤツと
         一日中顔つき合わせてられっと思うか?」

        「え?」

        「シゴトでコンビ組んだからって
         このオレ様が他人と寝食まで共にすっと思うのかよ」

        「え?・・・えっ?」

        「・・・ったく。『いつからスキか』なんて
         アホなコト言ったのはテメーだろが」

        「それは・・・」

        「・・・これで全部、答えてやったかんな。
         あとはてめーで考えろ」


 
   これ以上つき合ってらんねー。オレは寝る・・・と
   蛮は銀次に背を向けた。


       
        「そっか・・・」


   嬉しそうに、小さくつぶやく声。


   
        「・・・最初から、スキでいてくれたんだね?」


           ―――蛮は背中で聞いている。
             

        「オレは、自分で思ってたよりも、ずっとずっと、シアワセなんだね」

        

           ―――眠ったフリをしている。・・・と、        



        「ね。・・・蛮ちゃん。・・・・・・シて」

        「あ?」



    とんでもない相棒の言葉に、思わず返事をしてしまった。

    

        「オレ・・・欲しくなっちゃったvv」


    いたずらっぽく。

    でも、本気で、心の底から。

    銀次が、蛮を、誘った。



「シゴト中はダメなんじゃなかったのかよ?」



    ワザと不機嫌そうに言葉を返すと



       「ごめんね、蛮ちゃん。オレ、かたすぎたよねv」



    極上の、笑み。






    ―――ほんとに、銀次の相手をするのはタイヘンだ。

    

    だから蛮はこう言ってやるのだ。
       

       「・・・・・・バーカ」



    ―――この言葉に、ありったけの想いを込めて。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――☆★☆






  ど・・・どうでショウか?
  甘甘になってマスか?


  こういうシチュエーションは、もう皆様が
  さんざんステキvに書いていらっしゃるノデ。

  今更かなァ・・・とは思いましたが。


  とにかく、あま〜〜い2人が書きたくて。
  それに、基本は押さえて置こうかな、と(笑)

  やっと、ウチの美堂サンに、
  告白させるコトが出来まシタv

  (↑これこそ、ほんとに今更だよ。
   あーんなコトやこーんなコト。
   シておきながら・・・ねぇ?(*^_^*))


  ふぅ。
  とにかく今までで一番書くのに時間かかりましたよぅ。

  DVDー9で面出氏のコメントを読みまして・・・

  蛮ちゃんに 「バーカ」 って言わせるためだけに
  こんな長い話に・・・・・・。


  このあと、ちゃんと無事に「品」は奪還出来たのかなァ〜。
  

              2003.10.13.  真
   
        
  

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