〈深淵を覗く者〉
***
路地裏の演奏会が終わった。
ポールとヘヴンは、マドカを送るための
車を用意しに行った。
士度は動物たちを誘導しながら表通りへ。
銀次と夏実もそれに付いていった。
護衛を兼ねてマドカと2人で残っていた蛮は
バイオリンを返しながら、からかい半分でマドカに尋ねてみた。
「嬢ちゃんよ・・・何でよりによって、猿まわしなんだ?」
「えっ・・・あのー。どういうことですか?」
「銀次のヤローも、あれでナカナカいい男だと思うぜ?」
本当に銀次とマドカがつき合えば良いなどとは思ってないが
そんなノロケと取れなくもない言葉で、一応オススメしてみる。
「ええ。銀次さんは、本当に、いいヒトです」
予想どおりの答えに、
「所詮は、イイヒトどまりってトコだな」
いつものこった。ケケッ、カワイソーによ・・・と、相棒の不幸を楽しんでいると
「銀次さんには、好きなヒトがいます」
マドカがそんなことを言いだした。
「ヤローに聞いたのかよ?」
「ちがうけど・・・だぶん、そうです」
「へぇ?」
こりゃ、聞く価値ありだ。
「そのヒトがそばに居るだけで、嬉しくて、幸せで・・・
そんな気持ちが、息使いや、足音に、満ちあふれているの」
「アイツは、いつでもシアワセそーだケドな?」
「それはきっと、好きなヒトが、いつでもそばに居るから」
「・・・へぇー・・・」
「私・・・自分も・・・こっ、恋をして・・・
・・・それで解ったんです。銀次さんの気持ちが」
ヤローの好きなヒト。
当然、オレ様だよなぁ・・・などど思わず考えていると、
「だから蛮さん、私なんかに銀次さんを推薦しちゃ、ダメですよ」
そう言って、微笑まれてしまった。
どうやらばれているらしい。
「ガード下から、あの喫茶店に来るまでの間、銀次さんは
いろいろお話してくれました。奪還のお仕事の事や・・・
蛮さんがどれだけ『スゴイ人』で、『カッコイイ人』で『優しい人』なのか」
「あのアホが言うこたぁ、あんま信用しねーほうがイイぜ」
何となく、身の置き所がなくなる展開になりそうなので、
蛮が話をそらそうとしたとき
ふと、マドカが蛮の顔を手でなぞり始めた。
銀次以外の者は絶対に近づかせない蛮ではあるが
さすがにこれは振り払えない。
だが、振り払うべきだったのだ。
「蛮さんは・・・優しいヒトの顔つきをしています」
「あ?そうかよ」
蛮は事態を甘く見ていた。
「でも・・・ほんとうの蛮さんは・・・・・・」
突然、マドカの指先が震え始めた。
「怖い人・・・・・・なんですか?」
その言葉に、蛮の血がざわめきたつ。
理由を察したところで―――もう遅かった。
「・・・ヤベェ・・・・・・」
蛮の周りに重い空気がたちこめる。
「あ・・・・・・」
初めて受ける類のプレッシャーにマドカの身がすくんだ。
*****
己の本性を暴こうとする者に対しての、破壊衝動。
これは、魔女狩りから一族を守る為に課せられた呪縛。
・・・人格とは、別に生じる、これら忌まわしき血脈のサガ。
激しすぎる本能を、蛮は抱えて生きている。
視覚の代わりに、気配で他人を把握する力に長けたマドカは
はからずも蛮の『深淵』を垣間見てしまったのだろう。
マドカの感覚がそこまで鋭いとは思わなかった。
血に飢えた遺伝子達の誘惑に苛まれる。
だとしても。
覗かれたのは、オレの責任。
強靱な精神力で、蛮は自分を引き戻した。
水面下での葛藤など、微塵も感じさせず
蛮はマドカに声をかけた。
「・・・っと、すまねぇ。・・・でーじょうぶか?嬢ちゃん」
「・・・ごめんなさい・・・私・・・」
「あんたが謝るコトじゃねぇって。
こりゃ、オレ様の性分のモンダイだかんな」
「私・・・立ち入るつもりはなかったんです・・・」
「わーってる。オレが油断しちまった」
全くもって、テメーの不備。
「私・・・時々、こうしてほんとの事を知ってしまうの」
「そっか」
「自分では、どうしようもないんです」
「悪ィ。ヤな思いさせたな」
「蛮さんは、悪くありません」
「ムリすんな」
きっと、オレはまだ、禍々しい空気を身にまとっている。
「・・・ちっと、離れた方がイイ」
マドカにこれ以上負担をかけたくなかった。
蛮はタバコに火を付けてマドカと距離を置くと
煙を目で追いながら、思案した。
他人とは違う瞳で、ヒトのココロの『深淵』を覗く。
邪眼のように・・・知りたくもない真実や、ヒトのココロの闇を見る。
深淵を覗く者。
闇の中に生きる者。
神の耳と言われる程の聴力と
瞬時にヒトを把握する能力。
・・・もしかすっと、嬢ちゃんは
危ういトコロに立ってんのかも知んねェな。
『刻』に動かされる人間は、オレらだけで充分だろーがよ?
どんだけ巻き込みゃ、気が済むってんだ。
人間は、テメーらのコマじゃねェ。
・・・・・・フザケロよ?
―――何者かに向かって、蛮は静かに宣戦布告をした。―――
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・・・サイト開設後の一発目がこんな話〜〜〜?(泣〜)
トホホー。
すっげ、短いし〜。
しかも、蛮銀ですらナイよ〜 (-_-;)
ええっとー。
兜化してるマドカからイメージした話なんデスけどぉ・・・。
やっぱり、何だか、ヘンな話になっちゃったネェ・・・。
ちょっとダークな美堂サンも書いてみたくてェー。
恋愛感情とかが一番からまなそうなキャラが、
マドカだったのデス〜。
・・・って、何いっしょけんめ、イイワケしてんだか何だか・・・。
うぅっ。
次こそは、甘甘な蛮銀を書きたいデス。
2003.10.06. 真。