〈融合者〉
〜青の封印/金の鍵・その後〜
*****
「マリーア!ちっと聞きてぇコトがある!」
「あらあら久しぶり〜。元気だった〜?蛮」
こんな夜更けにのっけから、息巻いた蛮の第一声などものともせず
マリーアはおっとりと返事をした。
「んなこた、どーでもいい!
とにかく・・・っと・・あっ・・コラっ!テメっ」
「もしもしー。オレだよマリーアさん。2人とも元気だよ。
蛮ちゃん何か怒ってて話進まなそうだから、オレが替わりました」
「まぁまぁ、相変わらずウチの蛮がお世話になってるみたいね」
「ざっけんな!オレ様が世話してやってんだ!しかも『ウチ』って何だよ、ウチって」
「あーもう、ほらー。蛮ちゃんジャマしないでよ」
「うふっ―――ホント、進まないわねぇ」
電話自体も珍しいが、
あの蛮が誰かにあしらわれるのを聞く日が来るなんて・・・
そう思うと、ちょっと可笑しくなる。
「そんでね、マリーアさん」
「はいはい、何かしら」
「あっくんが家出しちゃったんだけど、そっち行ってない?」
知らぬが仏の平和さで
銀次が尋常ではナイことを、さらりと言ってのけた。
「・・・えっ?・・アスクが家出?」
「うん。だからね、シンパイなんだ」
「ちょ、ちょっと蛮に変わってちょうだい」
2人が不思議なユメを見たその日から
アスクが不安定になったという事を聞いてはいた。
しかし、『家出』が出来るほどアスクが実体を持ち始めているとは
かなり危険な兆候だ。
本来なら『シンパイ』で済むようなレベルの話ではないのだが・・・
「詠唱もしてねぇのに、いきなしアスクが勝手にあらわれやがってよ」
「あのねー。蛮ちゃんとケンカして出てっちゃったんだよ」
「あー、とにかくだ。早いトコ捕まえねーと、ヤベェだろ」
にわかには信じがたい話、とは思わない。
けれども・・・。
「これだけ生きてきて初めて聞いたわ、そんな話。
―――さすがは蛮ね」
「えー、すごいことなの?」
「いいえちっとも。間抜けなだけよv」
「あ゛?」
「どうやって探せばいいのかなぁ」
「んー、そうねぇ・・・」
実際、マリーアにとっても前代未聞の事態だった。
「あ!蛮ちゃん、今ココであらためて呪文唱えてみたら?」
「あんでだよ」
「それでアスクが大暴れすれば、ニュースになるよ。きっと」
「そうね、それで居場所がわかるかもしれないわ」
「うーん。でもケガ人を出しちゃったらマズいよねー。」
「ダレがやるかよ、んなコト!コッチぁマジに聞いてんだ」
そう。深刻な事態のハズなのに。
銀次と話していると、ついついお気楽方向へ脱線してゆく。
「ねぇねぇ、『逃げ出した大蛇の飼い主は新宿区の美堂蛮さん18才』
とかゆわれちゃったりすんのかなぁ?」
「うふふ。それは笑えるわね〜」
「・・オメーら・・・あとで覚えときやがれ」
「まぁコワイ。ちょっと言ってみただけなのにねぇ?」
「んねーっ」
銀次のカワイらしい相づち。なのに、マリーアは一瞬鳥肌がたった。
『何かしら。この引きずられるような感覚は・・・』
マリーアは、こっそりと魔力を使って蛮達の部屋を透視した。
『まぁ・・・!』
―――場の空気が歪んでいる。
ふと、電話越しに伝わる銀次のオーラに気がついた。
あぁ、コレが銀次クンの『周りを取り込む能力』なのね・・・
もしかして・・・アスクの実体化は、この子が・・・
何となく状況が飲み込めてきた。
だが、それは今口にすべきではないような気がして
マリーアは意識を元に戻した。
「マリーア、ババァから何か聞いてねぇか?」
「え?あ、あぁそうねぇ。『アスクの正しい捕まえ方』なんて
レクチャーを受けた覚えはナイわ」
「あ?オメー、何言って・・」
「あっくんの好きな食べ物って、何かなぁ」
「あぁ?テメーもさっきから何アホなコトばっか言ってんだよ!」
「え?だって好物につられるかもしんないじゃん」
「イヌネコじゃあるめーし。そんなんで捕まるわきゃねーだろが!」
どんどんずれていく2人のやり取りを聞いてるうちに
マリーアはある方法を思いついた。
『あら、タイヘン。あまり時間がない・・・』
「もしも〜し、お二人さん?
夜更かしはお肌に良くないから、もう切るわよ〜」
「ええっ!?ちょ、ちょっと、そんな急にマリーアさぁ〜ん!」
「お。何か手だてがあんだな」
「まーね。このマリーアさんに任せなさい。いいこと?じゃぁねー」
「じゃぁね、じゃねーよ!説明しろ、マリーア・・」
「んぁ。切られちゃった」
「ったく!!」
切断音が虚しく響く携帯を、蛮はベッドの上に放り投げた。
*****
―――事の起こりはこうだった。
ターゲットを奪い還してずらかる途中。
敵は、弱いクセに人数だけは呆れるほど多くて
さすがに銀次の電撃も途切れがちだった。
「銀次!デージョウブか?」
「んぁ〜何とかね!それよか蛮ちゃんこそ、ケガとか平気?」
「あぁ、オレ様はなにしろ無敵だかんな」
本丸から依頼品を奪うまでに、すでに2度、邪眼を使っている。
出来ればあと一度は、イザというときのために残して置きたかった。
「この裏庭を抜ければ、テントウ虫君まで後少しだね!」
「うっしゃぁ!一気に行くぞ!」
気合いを入れて走り抜けようとしたその時。
四方八方から、庭を埋め尽くす勢いで
更に敵がわんさか現れた。
「まずいなぁ。オレ、もうほとんど電撃出ないや」
「チッ!敵さん、こんな大勢どっから沸いて出て来やがんだ?」
まぁ2人にしてみればこんなレベルの輩なんて
切り抜けるのも、倒すのもワケはないのだが。
「あう。何か全然人数減らないんですけど・・」
「チッ!しゃーねぇな」
手加減しつつ、地道に闘うのがめんどくさくなり・・・
『その呪われし命運尽き果てるまで・・高き銀河より・・』
蛮は、ザコを相手に
アスクレピオスをほいほいと発動しまくったのだった。
なんとか無事にスバルへ乗り込んだものの
銀次は腹ぺこ、蛮は魔力を消耗しすぎてヘロヘロ状態。
それでも奪還屋の意地で依頼品を届け、ようやく部屋に帰り着いた。
疲れ果てた今となっては、小口に思える報酬ではあったが。
打ち上げと称してささやかな祝杯をあげ
蛮と2人、こうして寄り添っていると
銀次はとても満ち足りた気分だった。
蛮も機嫌良さそうにタバコを吸っている。
大好きなヒトの横顔を、銀次は今更のように見惚れていたが・・
「アレ?蛮ちゃん、どったの?」
「・・・っ・・何でもねーよ」
一瞬、苦しそうな表情をチラと見せたのに。
なんか、蛮ちゃん、ムリしてる?
「ねぇ、ホントに平気?蛮ちゃん顔色悪くない?」
「しつけーな・・・」
タバコを消そうと、銀次とは反対側へ置いた灰皿に手を伸ばす。
その指先が微かに震えている。
「蛮ちゃん!!」
「・・・クッ・・ソ・・」
「やっぱりケガしてたの?ドコか苦しいの?」
蛮の肩に手をかけようとすると、軽く振り払われた。
「ぎんじ・・オメー、ちょっと・・離れとけ」
「えっ?」
「はっ・・調子んのって・・魔力使い過ぎちまった・・みてーだ」
「蛮ちゃん、ねぇ、もしかして」
「危ねーから・・離れてろ」
「やだよ!」
そんなの、聞けるワケがない。
銀次はしっかりと蛮の身を支えた。
「あっくんが、またカラダん中で暴れてるんだね?」
「・・・シンパイすんな。あん時ほどヒドかねーよ」
「オレに出来ることない? 何かあったらゆってね」
これで少しでも痛みが紛れるといいな。
そっと抱きしめて、蛮の頬に軽くキスをした。
眼を閉じて蛮は浅い呼吸を繰り返してはいるが。
『大丈夫だ』とでもいうように、銀次のアタマをポンと叩いて答えてくれた。
内面で、銀次には想像も付かないような『たたかい』をしているのだろう。
そう思うといたたまれなくて。
『あっくん、お願い。蛮ちゃんと仲良くして』
蛮の右手を取ると、両手で包み込んで自分の頬にあて、
ココロの中で必死に呼びかけた。
『あっくん・・・お願い・・・!』
―――ギュっと眼を閉じ、懸命になっていると
しばらくして蛮の声が耳元に響いた。
「銀次・・ぎーんじ!」
「・・・・・・んぁっ?」
「終わったぜ?」
蛮が苦笑しながら言う。
「蛮ちゃん!もう大丈夫なの?」
「あぁ。おかげさんでな」
銀次ごと右手を引き寄せ、そのまま抱きしめてくれた。
銀次は蛮の胸に額を押し当てて、安堵の息をもらす。
「よかった・・」
そう言って銀次も蛮を強く抱きしめ、
互いの温もりをしばし味わっていると・・・
「んじゃ、まぁ、お見舞いってコトで」
蛮が銀次のシャツに、手をかけ始めた。
「せっかく密着してるしよ」
「〜〜もう!ついさっきまでヘタレてたクセに」
ちょっと呆れはしたが、素直にカラダを預けた。
蛮がいつもの調子に戻ってくれたコトが嬉しかったから。
「ねっ」
「あん?」
「・・・あっくんと蛮ちゃんの関係ってツライね・・・」
押し倒されながら、銀次はそんなコトをポツリと呟く。
「しゃーねーだろ。そーいう契約なんだ」
「んっ・・・そっか・・・でも・・・」
己の頬に沿えられていた、蛮の右手を捉えて
『オレの声を聞き届けてくれて、ありがと。あっくん・・』
銀次はその手の甲に唇をおとした。
―――瞬間、アタマの中を閃光が走り、思わず身をすくめる。
「銀次?」
蛮の声にカオをあげると―――
―――部屋中を占める巨大な蛇の幻影が、銀次を見つめていた。
「えっ?・・・あっくん・・?」
「なっ・・どういうこった」
銀次の視線を追った蛮は、そこに信じられないモノを見た。
*****
「あなた達、一体アスクに何をしたの?」
マリーアは、例の隠れ家に召還獣をおびき寄せる
魔法陣を描いておいたのだという。
日を浴びると消えてしまうので、それまでにアスクが
捕まるかどうかのカケだった。
『アスクを無事に保護できたわよ』
翌朝、マリーアからの電話を受けて、2人は急いで駆けつけた。
「・・・されたのはコッチだっての・・」
「あ・・あのね。その・・オレ達が仲良くするの、邪魔したってゆって・・」
蛮は、アスクに邪眼をかけたのだ。
脱皮しようとしても、太りすぎて皮が抜けない・・・などという
アホらしさ極まる内容で。
アスクはショックのあまり、以前のように小さな紫色のヘビと化して
夜中さまよっていたらしい。
幸いその色と形態のため、人目に触れずにすんだものの
アスクは『ヤル気を無くして』しまった。
「ええ?どういうコト?」
「蛮が詠唱したところで、効力を発揮しないってところかしら」
「あぁ?使いもんになんねーってか」
「蛮ちゃん!そんな言い方しなくっても・・・」
「主従関係の契約を無視したアスクが悪ィんだろが!」
「うーん。だからといって、ねぇ・・・」
ヘビがヘビ野郎に邪眼をかけられるなんて・・・そりゃぁアスクも
プライドをさぞかし傷つけられたコトでしょうよ。
マリーアは呆れて溜息をついた。
「ふぅ〜。ま、イイわ。そのうちアスクも機嫌を直すでしょうから」
「で、ヤツは今どうしてんだ」
「とりあえず隣の部屋に結界を張って、閉じこめてあるわ」
銀次は目を見開いた。
「なんで?・・なんでそんなコトしなくちゃいけないの?」
「・・・あのね銀次クン。あなたとアスクは仲良しかも
しれないけど、本来アスクは無差別な『攻撃型』の召還獣なの」
「無差別・・・」
「だから、サモナーの命がけの手綱が必要なのよ」
その恐ろしさは銀次だって充分承知している。
目の前で蛮が苦しむのだって、見てきた。
それでも、銀次にとって、アスクは大事な友達だから。
「オレ・・・あっくんに会ってみてもイイ?」
「そうねぇ。じゃ、ちょっとならいいわよ」
今度は蛮が驚く番だった。
「マリーア!冗談じゃねぇぞ。オレの手を放れたアスクなんざ、
何すっかワカんねぇんだぜ? 今テメー自身がそう言ったじゃねーか」
「銀次君なら大丈夫よ」
「ホント?マリーアさん。ねぇ、蛮ちゃんイイでしょ?」
縋るような瞳で問われると、無碍にダメとも言えなくなる。
「ええ。でも気を付けてね。結界の中には入らないようにね」
「あい!解りました!・・じゃぁ蛮ちゃん、オレ行って来んね」
「・・・チッ。銀次、何かあったらオレを呼べよ」
「うん!」
心底嬉しそうな背中を見送って、蛮は複雑な心境だった。
何故、銀次がアスクに対して、あそこまで執着出来るのか・・・
正直ワカらなかった。
蛮にとって、アスクは永遠の負荷、だと思っていたから。
「さてと。あなたとは大事な話しをしないとね」
「あんだよ。説教なら聞くつもりねーぞ」
そう言い返す蛮を強引にテーブルへつかせる。
アスク出現までの詳しい経緯を聞くと
マリーアはいつになく真剣な表情でなにやら考え込んでいた。
「シビアに言えば、危険な存在なのはアスクではなく・・銀次クンの方よ」
「あ?アイツのドコが危険なんだよ」
「ホントは魔女の血なんかより、ずっとコワイ」
「・・・何が言いてぇんだ」
「良かれ悪しかれ、秩序を乱し、周囲のリアルを崩壊させるモノ」
「・・・・・!」
「銀次クンの施す現実と非現実の『融合』」
「融合・・・」
「コレが無秩序に進めば、どれだけ恐ろしいコトになるか。
アナタにわからないはずはないでしょう?」
「だったら、何だってんだよ・・・!」
蛮は拳を壁に叩きつけた。
*****
「ねぇねぇ、蛮ちゃーん、マリーアさーん」
2人の厳しい表情などものともせず、銀次は勢いよく駆け戻ってくると
蛮の背中に飛びついた。
何事もなかったか、と安心して振り返ったその目に
子犬よろしくシッポを振ったアスクの姿を捉えて溜息をつく。
「ほら、あっくん連れて来ちゃったーv」
懐きまくるアスクと、得意気な銀次のカオといったら。
蛮とマリーアにとっては、あまりにもシュールな眺め過ぎて
かえってこっけいさを覚えた。
「・・・こりゃぁ、もう笑うしかねーって?」
「結界だの魔法だのなんて、意味をなさないのね。銀次君には」
「何だって、アイツはああなんだ」
「ああって?」
「周りをふぬけ・・イヤ、まぬけにしてしまいやがんだよ!」
「クスっ。じゃぁ、あなたはどうなの?蛮」
「うるせーよ」
マリーアの皮肉を聞き流して、蛮は
楽しそうにアスクと戯れている銀次のアタマをはたいた。
「かってにナゴナゴしてんじゃねぇ」
「いったいなー。殴るコトないじゃんか」
「っつーか、アスク!オメーいつまでオレんトコ戻らねぇ気だよ」
蛮が手を伸ばすと、アスクはプイと横を向く。
「・・・のヤロ!こうなったら意地でも捕まえてやんぜ!」
「待ってよ。オレ、もう少しあっくんと遊びたい」
「あぁ?遊ぶ・・・ってオメーなぁ。
オレ様がソイツを宿すのに、どんだけ苦労したと思ってんだ!」
自分で言っておきながら、どこか違和感がある。
何だ、この妙な展開は。
さすがの蛮も、呆れてしまう。
アスクと銀次のコンビが繰り出すリアルの崩壊。
なんてこった。
こりゃ確かにメチャクチャだ。
今、世界は銀次の手の上にある・・・なんてコトは知る由もなく。
聞く耳持たずでちょこんとタレると、お構いなしの独壇場。
銀次はアスクに何かを囁いた。
「よおし!あっくん・・・行くよ!!」
とたんにアスクは元の姿を取り戻して巨大化すると、
銀次を背に乗せてフワフワと部屋中を飛び回り出す。
「なっ・・!アスクはサボタージュしてんじゃなかったのかよ」
「えへ。ちょっと拗ねてただけだよねーvあっくん」
「銀次クン・・・あなたって・・・ホントに・・」
銀次の『能力』が、無意識のウチに最大限で発揮されているのだ。
「ねぇ、蛮・・気が付いてて? ワタシ達、この状況を
何の疑問も持たずに受け入れ始めてるわ」
「あぁ・・・」
「それだけスゴイ力を持っているのよ、銀次クンは」
「・・アイツがねぇ」
「あの子がイイコだから、救われているのよ」
「・・・・・・」
「ね。銀次クンはあなたの為に、アスクとの新たな関係を
開こうとしたのじゃないかしら。なにしろあなたの鍵ですものね」
「意味ワカんねーぜ。マリーア」
銀次は、蛮と一緒にいることによって
この世の法則を把握しているから。
「だから、万が一あの子が暴走したときは
あなたが封印をするべく、定められているのね、きっと」
「・・・ゴチャゴチャうるせーよ。オレと銀次はンなご大層なモンじゃねぇ」
「そうね、ごめんなさい。余計なことを言ったわ。
あなたさえそう強く想えば、それが現実となるのだから・・」
「シンパイすんなって。何がどうあろうと
オレはヤローとスキ勝手に生きてくつもりだかんな」
「ええ。わかったわ」
良かれ悪しかれ、秩序を乱す。周囲のリアルを崩壊させる・・・か。
確かにそうかもしんねェ。
ケド、
そんなお堅い表現に、似つかわしくねぇんだコイツは・・・
蛮はあえていつもの調子で相棒に声をかけた。
「んな簡単に乗りこなしてんじゃねぇっ!!」
「うわー!楽しいのですーv 蛮ちゃんも乗る?」
「乗るか!アホ」
そんな2人を、マリーアは複雑なほほえみで見つめていた。
*****
「あっくん、銀次君、お楽しみのトコロ悪いケド
・・・そろそろ歪みを戻さないとね」
「んぁ、そんなぁー」
「仕方ネェだろが。それとも、このままでイイって言うのか?」
「うぅー。よくはないよ。蛮ちゃん困るでしょ?」
「ったりめーだ」
「うん、じゃぁワカったよ。残念だケド・・あっくん、もうお帰り」
アスクの動きが一瞬止まった。
「乗せてくれてありがと!また遊ぼうね!」
しかし、アスクはうなだれたままだった。
「あっくん・・・?」
「な・・コイツ・・んな感情があんのか?!」
アスクはそっと銀次の肩にアタマを乗せると、甘えるように首を振り、
透き通った涙を銀次の手のひらに一雫こぼした。
「あっくん!!」
銀次がアスクの鼻先を撫でようとすると
不意にするすると離れ、意を決したように一つうなずき、身を翻す。
「ねぇ、どしたの?ドコ行くの?」
銀次の声に一瞬だけ振り向くと、深い深い紅玉の瞳で銀次を見つめ
自ら結界の部屋へ入って行った。
「あっくん・・・・・・」
あぁ、あっくんは、オレが帰れってゆったから・・
実体化を解いてしまうつもりなんだ・・
銀次はアスクの涙をキュっと握りしめて、泣くのを堪えていた。
・・・この光景を、息を詰めて見守っていた蛮とマリーアは、
銀次の叫びに、はっと我に返る。
「ねぇ・・・コレ見てー!!」
手のひらの上で、アスクの涙が紅く結晶化していた。
「涙が石に・・・って、マジかよ?!」
「まぁ!それは『冥府の魔石』と呼ばれるモノだわ!」
「マリーアさん、知ってるの??」
「この世に幾つもは存在しない、貴重な石。とても強力なお守りなんですって。
・・蛮のお婆様が持っていらしたのを見たことがあるわ」
「へぇ」
「そんなスゴイものを、あっくんはオレにくれたってコト??」
「名前をもらったお礼、かしらね。きっと」
「そっか・・・」
銀次は潤んだ瞳で紅い石をじっと見つめていた。
この紅を、どっかで見た覚えがある・・・
「それにしても、スゲー濃い色してんな」
肩口からのぞき込んできた蛮の横顔にふと目をとめる。
「コレって・・もしかして蛮ちゃんのとお揃いじゃない? ねぇ、ホラ!」
「・・こりゃ・・オレのピアスと同じ石・・・!」
蛮の声が合図であったかのように、突然2つの石が光り始める。
「うわぁ〜〜v」
めくるめくイメージがアタマの中を去来してゆく―――
巡り会うコイビト達。
求め会う魂達。
幾星霜決して絶えることのない、永遠の思慕。
それら誰かを強く想う気持ちが、あらゆる時空を超えて
紅く輝く光りの中へと集結する。
それは『絆』という名の、まばゆい灯火。
青き封印よ、覚醒者よ。
金の鍵よ、融合者よ。
2人が共に居る限り、この灯火は消えぬだろう。
この灯火が絶えぬ限り、世はなべて安寧の時を得る・・・
―――最後に聞こえた声は、アスクのものだったのかもしれない―――
「んぁービックリした。でも、なんかシアワセな気持ちになったね〜」
「何だったんだ?今のは」
「あら・・お婆さまから継承したのじゃなくて?」
「どーいうコトよ?」
「アスクの石は、こうやって現実に干渉して・・いつでもアナタを護衛してくれてた。知ってて?蛮」
「聞いてねーよ。んな話しは・・・」
そう。
―――もうずっと以前から、蛮だって己の領域へ神話を持ち込んでいたのだ。
そして。
何者をも惹き付けてしまう融合者=銀次を通して、神話は現実とシンクロされた。
故にリアルの浸食が始まってしまったのだ。
ならば。
・・・やっぱりオレが扉を閉めなければいけないんだね・・・。
「あっくん・・・バイバイ。そしてお休み・・・」
そっと呟いて、銀次がポケットへ大切に石をしまい込んだ瞬間・・・
アスクの幻影は姿を消した。
*****
―――あぁ、あの時と同じパターンだ。
そう思いながら銀次は目を覚ました。
今のはホントに夢だったのかな? ドコまでが夢だったんだろう。
・・・蛮ちゃんもまた同じ夢を見たのかな。あとで聞いてみようっと。
夜明けまでには まだ数時間ある。
そして、朝になったらポケットの中を調べてみるんだ。
キレイな紅い石が入ってたらイイなぁ・・・。
銀次はアクビを一つもらすと、蛮に寄り添い
毛布にくるまって、再び眠りに付いた。
―――こうして、ようやくこの神話はただの物語へと還元された。
アスクは居るべき世界へ戻って行った。
おそらくもう2度と『あっくん』と会うことはない。
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ヘンさ加減(?)がパワーアップして
銀次とあっくんのお話し、再びです♪
えと。
「青の封印/金の鍵」という 以前書いた蛮銀番外話しの続きなのです。
当初、もう少しコメディー調を目指してアスクもペラペラ喋っていたんですが(笑)
あまりにくだらないので、ヤメました。
その後、完全にパラレル設定にしたものの、コレも収拾つかなくなって、ボツにしました・・・
何度か書き直した挙げ句
思い切りファンタジーにしてみたつもりなのですが、うーん。 さてどうなんだろぅ?
支離滅裂な文章になってしまった気が・・・。 はうー。 2004.03.06. 真