〈空模様・心模様 @雪〉
*****
「んぁー楽しかった〜」
「アホ、上着脱いでから部屋に上がれっての!」
トウキョウに今年初めての雪が降った。
今どき犬でも喜ばねーのに
銀次は雪まみれになって大はしゃぎしやがった。
「あーチキショ、寒いな」
「うーん。オレもさすがに寒い」
「ったりめーだ。アレだけの雪ん中でボケっと突っ立ってりゃぁよ」
急いで暖房を付けたが
音だけは盛大で、そのワリには効きめが遅ぇ。
ったく、中古のエアコンなんざ買うモンじゃねーな。
冷たい雫をこぼす服を着替えると
ようやく人心地ついてソファに凭れる。
直接床に座り込んでいた銀次は
なにやら甘えを含んだ微笑で、オレを見上げてきた。
「ねぇねぇ、ちっとも暖かくなんないね?」
言外のおねだりを察して、テメーのすぐ脇を指さしてやる。
「ホラ、特等席」
「んっ・・・v」
隣に座るなり、身を預けてくる銀次を抱きしめてやった。
「えへっ。蛮ちゃん、暖か〜い」
「捕まえたぜ?」
「あ・・・」
―――暖め合うため、なんてのは口実。
んなこたぁ、お互い百も承知だ。
確信犯の抱擁。
背中に腕をまわせば、ロクに身動きできないのも当然で
あとはクビしか動かせない。
退屈しのぎとウソぶいて、キスを交わす。
至近距離で視線を合わせ、欲情の潤みを汲み取ると
あとはそのまま倒れ込む。
足を絡ませ、躰を密着させるうちに
熱を求めて次第に深みへ移行してゆく。
凍えたカラダは、僅かな温もりにも
敏感に反応した。
*****
雪の中で発電なんかしやがるから
危なくて近寄るコトすら出来なかった。
中を舞う白い雪が、銀次の周りで瞬時に蒼く光っては溶けていく。
つい引き込まれるような幻想的な眺め。
ロクに暖房も効かねぇスバルん中から
そんな銀次の様子を紫煙越しに見ていた。
依頼人との打ち合わせを終えての帰り道で
夜になって突然降り出した雪に、銀次は歓声をあげると
『オレ、ちょっと遊びたい!中央公園に行こうよ』
ガキみてーなコト頼んで来やがった。
公園に着く頃には(・・って、ワガママ聞いてやるオレもどーよ?)
かなり大降りで、
オレはスバルを降りる気になんざなれなかった。
濃紺の空と真っ白な地上との狭間に一人佇む人影が
蒼いプラズマに縁取られてクッキリと浮かび上がる。
淡く微笑んで空を見上げ
手のひらに雪片を受け止めようと、そっと腕を伸ばす。
ケド、雪は銀次に触れる直前、儚く消えてしまう。
追い求めても掴めない。
何かを捕らえ損ねたかのように項垂れて
己の手を見つめている。
ああ、そうだ。
冷たい雨に打たれていたあの頃のオメーも、
常に電光をその身に纏い、近づく者達を拒んでいたっけか。
雪なら、尚のコト冷たいだろうに。
銀次はただ単に、雪にはしゃいでるだけなのにな?
そンな風に見えちまうとはよ。
それにしても、いつまであーしてるつもりなんだか。
・・・そろそろあのバカを連れ戻すか。
と、車を降りかけたところで
―――銀次が激しく放電し始めやがった。
そうやって誰も踏み込めねぇ聖域を
オメーはまだ作り続けるつもりなのかよ。
銀次。
・・・んなコトすっから
オメーだけには汚れて欲しくねぇと、思いたくもなるんだぜ?
ガラにもなく感傷的なテメーに呆れ、オレは肩をすくめた。
聖域にあえて足を踏み込んで、悦に入ってたのは他でもねぇ。
このオレだってのによ。
*****
「・・早くイキてぇような・・」
「あっ・・ぅ・・オレも・・」
「やっぱ・・・このままもうちっと楽しみてぇような・・」
「・・っ・・蛮ちゃんの・・欲ばり・・・」
組み敷いた銀次の肌は、すでに汗ばんでいて
熟れた熱がキツくオレを締め上げてくる。
「へっ・・なに言ってんだ・・オレ様は・・」
「うぅ・・イヤっ・・・ぁ・・・んっ・・」
「欲深いに・・・決まってっだろ?」
挿れてるだけじゃ、モノ足んねぇ。
もっと乱れたオメーが見てぇから
前も扱いて、唇も奪って、更に強く突き上げる。
誰よりも銀次を守りたい、と願うオレ自信が
こうしてこの手で銀次を蹂躙し、
オレだけに許された特権に支配欲が疼く。
・・・ホントは『罪深い』・・かもしんねーな。
矛盾してんぜ。
オレは銀次を堕としてぇのか
汚したくねぇのか
「あぁっ・・・イ・・イよぉ・・オレ・・もう・・」
「・・ダメだ・・もっと来いよ・・なぁ」
「んっ・・蛮・・ちゃん・・好きだよ・・ねぇ」
―――汚したくねぇから。
腹で渦巻く欲望を白い精にすり替えて吐き出してんだ。
・・・なんてな。
あと一息のトコロで挿入を少し緩める。
焦れた銀次の表情を楽しんでやろうと
ちょいと乱暴に顔を上向かせてやった。
「くっ・・・んぅ・・蛮ちゃ・・!」
「・・・・・銀次・・」
気のせいだ、と思いてぇ。
こんな時、ヤローが泣くのはいつものコト。
なのによ。
褐色の瞳からこぼれる涙を目で追ううちに
『あの頃』の銀次がダブって見えちまい・・・
・・・テメーが萎えかけてんのがワカった。
そのまま続けてりゃぁ、別に難なくイけたが
「・・・なんか乗らねーや。悪ィ、ヤメだ」
―――引き抜いた。
「やっ・・イヤだよぉ・・ばんちゃ・・ん」
堪えきれずに縋り付いて解放を訴える唇。
噛み付くようなキスをくれてやりながら
手だけで銀次をイかせてやった。
・・ったく、調子狂うぜ。
今日のオレはどーかしてんな。
*****
降り積もった真っさらな雪を見て、汚したくない気持ちと
不意に思い切り踏み荒らしたくなる気持ちは表裏一体。
ただこの白さを独占したいだけのコト。
銀次への感情は、ソレに似ている。
そんなオレのエゴから発した気まぐれを
銀次はテメーの力不足と思ったのかもしんねぇ。
オレの反応が鈍かったコトが、ショックのようだった。
「ゴメン・・オレが泣いたりしたからだよね」
オメーのせいじゃねぇよ。
・・そう言ってやる前に、銀次は2度目を求めてきた。
「・・・蛮ちゃんは、オレに優しすぎるんだ・・」
「銀次・・・?」
なんてこった。
「一緒がよかったのに」
「・・・っ・・」
ヤロー自らオレを口に含み、稚拙ながらも
ツボを捕らえた舐め方しやがって・・・!
「・・テメ・・なーにシてんだ」
そんな状況にムカついて
直ぐさま体勢を入れ替えようとしたが、
「蛮ちゃん、お願い。オレにさせて・・・」
コトバはえらく扇情的でも
思い詰めたようなマジ顔すっから
「・・いいぜ?好きにヤレよ」
そう答えちまった。
苛ついたオレの声に余計カン違いしたらしく、
テメー自信のほぐしは足りてねぇのに
ムリヤリ銀次はオレを呑み込んだ。
「あぁっ!・・・つっ・・ねェ・・蛮ちゃん・・」
「・・・アホ、痛ェならヤメとけ」
「痛くないよ・・離したくな・・い・・蛮ちゃんと
少しでも・・深く・・ねっ・・もっと・・」
らしくねぇ性急さでコトを進めようとしやがるから
―――突き放すしか、なかった。
初めて銀次を抱いた時から・・・こんなメだけには
合わせねェよう、このオレ様が気遣って来たってのに。
銀次は裂傷を負い、ソファには血痕が残った。
*****
銀次の処置を終えて寝室へ運び、ベッドに横たえてやった。
互いに何をどう切り出してイイかもワカらずに
しばらく黙って見つめ合う。
謝罪、愛情表現、説教。
どれもしっくり来ねェ複雑な心境に、オレは
結局無言で立ち上がった。
「行かないでよ・・」
銀次は泣くのを堪えた声で言い、
ヤローもその先の言葉を探しているようだった。
「向こう、片さなきゃなんねーだろ?」
責めている、と思われねェよう
金糸の髪をくしゃくしゃにしながら答えてやると
銀次はオレの手をかき抱いた。
「・・・蛮ちゃん・・ごめん・・ゴメンナサイ・・」
「オメーは謝んなくてイイ」
手を預けたまま半身を捻り、ベッド脇に腰掛ける。
「・・傷つけたのは、オレだ」
「それは蛮ちゃんのせいじゃナイよ・・!
・・・オレがあんなバカなコトしたから・・・」
「銀次!・・・オメーが悪ィってワケでもねぇ。イイな?」
「・・蛮ちゃん・・・」
強引に言い聞かせると
いつもより血の気の薄い頬にキスを落とした。
「もう少し休んでな」
「・・・うん」
再び腰を上げて部屋を出るオレの背に、
「蛮ちゃん。・・手当、ありがとう・・」
精一杯の思いが込もった「ありがとう」に
一瞬、足が止まる。
オレは振り向かずに右手を挙げただけで答え、寝室のドアを閉ざした。
―――ここまできて、今更、オレ達の迷いが始まった。
そうと気づいたのは後の話しであって、この時は2人とも
テメーの心情も互いの心情も、ホントは把握してなどなかった。
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ふふ。
オレ様な攻めを心がけてるご本人には不本意でしょうが(^_^;)
ヘタレ好きを宣言したからには
ぜひ書いてみたい〜と思っちゃったんです。
・・・萎えちゃう美堂さんを!(爆)
本誌ではイン○になったらオンナが泣くとか申してますが
ココでは銀次が泣いてマス。。。
蛮ちゃんは、決してイン○じゃナイから安心してね。
もうしばらくこんなカンジで続きますが、最後は甘く
ラヴラヴにする予定です。 宜しければお付き合い下さいませv
2004.01.28 真